東京高等裁判所 昭和27年(行ナ)16号 判決
原告 田淵順三
被告 特許庁長官
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は昭和二十五年抗告審判第四九七号事件につき特許庁が昭和二十七年五月二十九日になした審決を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、
原告はその「梯形状捲回線器体による卵白を水液状とする方法」なる発明につき昭和二十三年十月十日特許庁に対し特許の出願(特許庁昭和二十三年特許願第八九一三号事件)をしたところ、昭和二十五年八月十一日拒絶査定を受けたので同年九月二十五日特許庁に対し抗告審判の請求をし、同事件は特許庁昭和二十五年抗告審判第四九七号事件として審理せられ、昭和二十七年五月二十九日右抗告審判請求は成り立たない旨の審決がなされ、同年六月七日右審決書謄本が原告に送達された。
右審決はその理由に於て右出願に係る発明の要旨として「弾性力強き線条を渦巻状に捲回し、之を常態梯形状器体に形成し、該梯形状器体の最上端に柄を附設し最下端遊離部に小球を附し、次に容器に結合力強き卵白を容入し、前記柄を振り容器内に於て梯形状捲回線条に之の張力に抗して押圧力を加え、最下端の最大径の捲回線条と之より径の小なる其の上方の捲回線条との間隙より卵白を逸出し、他の一部は上方の捲回線条に衝き当りて更に破壊され、これを段階的に時を異にし且つ変位して逐次繰り返し、最後に器体を扁平状に圧迫して卵白に没入し終りたるとき押圧を止め器体をして梯形状に復帰し、其の復帰に際し卵白は梯形状器体の表面に層をなして該器体を被包し、器体と容器との間に空室を形成す、この空室に大気進入すること及破壊された卵白の滴下を相俟て卵白層中に気泡を形成以て卵白の凝固力を妨げる一方、次の破壊を容易ならしむ、この操作を繰り返して卵白の結合を破壊すると共に小気泡を此の間に密に形成して卵白を水液状となすことを特徴とする梯形状捲回線条器体による卵白を水液状となす方法」なることを確定した上昭和二十三年実用新案出願公告第一三五七号及び昭和九年実用新案出願公告第一一三二号公報を引用して之等引用例にあるが如く卵白泡立器に於て容器底部に空気を供給することは極めて普通に行われることであるから原告の出願に係る前記発明が新規の発明でないものとし本件出願を排斥した。
然しながら右審決は次の各理由により違法である。即ち、
(一) 審決はその理由に於て本件出願に係る発明とその引用の前記昭和二十三年実用新案出願公告第一三五七号の考案との差異として、(1)本件発明による卵白泡立器は円錐形状(梯形状)であるに対し右引用例によるものは皿状であること、(2)本件発明による卵白泡立器は捲回部を一平面上に圧縮した場合に捲線相互が密着するに対し引用例によるものは互に離隔していること、を認定しながら、本件発明の方法が新規性を有しない所以を説明したところなく、以て原告の主張した重要な争点に対する判断をせずして原告の出願を排斥した。
(二) 審決のように新な引用例(昭和九年実用新案出願公告第一一一三二号)を示して卵白泡立器の底部に空気を供給することが公知であると言う新な理由で本件出願を拒絶するには出願人にその理由を示して意見書を提出する機会を与えた上でなければならないこと特許法第百八条、第百十条により抗告審判に準用される同法第七十二条により明らかであるに拘らず本件抗告審判に於ては右手続を経なかつたものである。
(三) 特許法第四条第二号にいわゆる刊行物は之を狭義に解し単一刊行物を謂うものと解すべきであるに拘らず、審決が昭和二十三年実用新案出願公告第一三五七号公報と昭和九年実用新案出願公告第一一一三二号公報との二つの刊行物を引用して本件発明が新規のものでないとしたことは右特許法第四条第二号の解釈を誤り不当に之を適用したものである。
(四) 本件発明方法に於ては原告が本件抗告審判繋属中昭和二十六年十二月三日附の訂正明細書を以て述べた通り右発明方法に使用する器体を常態截頭錐形の梯形状にすることにより該器体の具有する張力に抗して容器内に於て押下するときは最下端の最大径の捲回線条を卵白に接触させて卵白の凝固力を破壊し一部は上方の捲回線条に衝き当る、更に之を継続するときは下方より数えて第二捲線に相当する稍々小径の捲回線条に接触して卵白の凝固力を破壊しその破壊された卵白の一部は上方の捲回線条に衝き当り卵白の他の一部は捲回線条間より器体外に逸出する、之を順次に上方に繰り返して卵白の凝固力を破壊するものであつて、押下終つたとき器体全体が卵白液中に没入する故に押圧を止めるときは捲回線条間に間隙が存しないので器体の伸張に於て器体の表面に卵白層を形成する、この卵白層が器体の表面に形成される所以は捲回線条が扁平となつたとき捲回線条間に間隙がないので器体下に移動することを阻止されて器体上に堆積されて層となる故に器体はその存する弾力により急に常態に復帰した瞬間も之を持続し、器体と容器との間に真空室を形成する、この真空室と外部との大気の圧力差は時の経過により破れ大気は卵白層を破つて進入し気泡を形成する、その進入に伴い卵白層の一部も器体内に進入するに至り、この場合も卵白の凝固力を破壊する、之を連続繰り返すとき即ち柄をとり器体に対して圧扁伸張を振動的に繰り返すときは卵白は容器内で入道雲の重合した状態のように泡立つに至るのであつて、右発明はこの効果を目的としたものである。故に之を要約すれば、右発明は、(A)器体を截頭錐形状の梯形状(円錐形)とすること、(B)扁平状となつたとき捲回線条間に間隙を設けないこと、(C)器体外に卵白層を形成して器体と容器との間に真空室を形成すること、(D)真空室内外の気圧の差を破つて大気が進入して気泡を形成すること、(E)器体の伸縮を連続的に継続することにより入道雲の重合したような泡の結合体を得られること、以上(A)(B)(C)(D)(E)を以て必須の要件とするものであつて、之等要件は右発明と他との比較に於て看過し得ないものである。然るに審決は本件発明方法が恰も器体のみを要旨とするもののように説示して認定を誤り、前記引用例の調理具との前記のような構造上の差異あることを認めながら以上の(A)(B)(C)(D)(E)の各要件を無視して原告の出願を排斥したものである。
(五) 審決に於て本件発明と対照の為引用された昭和二十三年実用新案出願公告第一三五七号の考案に於ては捲回線間に間隙を設けること及び捲線部を皿状としたことを重大な要件としており、本件発明に使用する器体のように圧扁したとき捲回線が密着することは全然予想しておらず、この点は両者を比較する場合に看過すべからざるところである。又本件発明の方法に使用する器体はその伸縮することとこの伸縮によつて或る時は捲線間に間隙を設け、或る時は捲線を密着させて器体に変化を与えることとが相互に重要な因果関係を有し、この事が発明の目的達成上看過し得ない要点をなしている。然るに前記引用例の考案に於ては捲回線間に間隙があり、本件発明により得られる入道雲の重合したような泡の重合体は得られるものでなく、両者の思想は根本に於て異なつている。然るに抗告審判に於ては之等の点につき審理をしなかつたものであつて、審決は審理不尽理由不備のものである。
(六) 尚審決に於て本件発明との対照に引用された前記昭和九年実用新案出願公告第一一一三二号の考案では中空パイプ3の下端に有孔板1を定着し之を容器4に挿入すべくなし中空パイプに連通孔6を有する手柄5を附設したものであつて有孔板1を扛挙するとき連通孔6を開き器底に空気を送るものであつて、板1と容器4との間に真空室を形成するものでなく、又右引用例の考案は板1を押下するときは孔6を塞ぐものであつて、本件発明方法とは全然別個のものであつて、之を本件発明方法との対照の具に供することは適切ではない。
之を要するに本件発明が新規性のないものとして本件特許出願を排斥した前記審決は失当であるから原告は審決の取消を求める為本訴に及んだ。
と述べ、
立証として甲第一乃至第十一号証並びに検甲第一及び第二号証を提出し、検甲第一号証は本件発明に基ずき原告の作成した攪拌器であり、検甲第二号証は昭和二十三年実用新案出願公告第一三五七号公報により作成された攪拌器であると述べた。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、
原告の請求原因事実中原告がその主張の発明につきその主張通り特許庁に特許の出願をし、之に対し原告主張通り拒絶査定がなされ原告がその主張通り特許庁に抗告審判の請求をし、原告主張の日に右抗告審判請求が成り立たない旨の審決がなされその審決書謄本が原告主張の日に原告に送達されたことは認める。
原告が右審決を違法のものであるとする理由の(一)につき、審決にはその理由に於て本件発明と引用に係る昭和二十三年実用新案公告第一三五七号の考案とは「使用に当つては把手を持つて容器内の資料即卵白を器底に向つて押圧して資料を捲線にて切断し、その間隙から外側え濾出させ、そして斯る操作を繰り返して卵白を攪拌すること、即ち之が使用法並に作用に於て何等相違する所はない。」と記載してあつて、右は本件発明が新規性を有するか否かにつき特許庁が右抗告審判に於て審理を遂げた跡を明示したものであり、従つて原告主張のように審決が本件発明の方法が新規性を有しない所以を説明せず以て重要な争点に対する判断をしなかつたものと言うことはできない。
同じく理由の(二)につき、審決がその理由に於て新に示した引用例たる昭和九年実用新案出願公告第一一一三二号公報は単に参考迄に提示したに過ぎないのであつて、且右引用例の有無は本件特許出願の許否に何等の関係がないのであるから、このような性質の引用例に対しては出願人に意見書提出の機会を与える必要はないのであつて、出願人に右意見書提出の機会を与えなかつたが故に審決が違法であるとする原告の主張は失当である。
同じく理由の(三)について、審決は本件発明の方法が原査定に於ける引用例即ち昭和二十三年実用新案出願公告第一三五七号公報に容易に実施し得る程度に記載されたものであるとして特許法第四条第二号により同法第一条所定の新規の発明と認め難いとしたのであつて、昭和九年実用新案出願公告第一一一三二号公報は単に参考迄に例示したに過ぎない。従つて之を以て原告主張のように二つ以上の刊行物を引用したものと解すべきではない。
同じく理由の(四)について、審決は卵白の攪拌器をも包含した方法の発明として本件発明の全般に亘つて審理をした上なされたものであつて、原告主張のように本件発明が器体のみを発明の要旨とするものとしてなされたものではない。而して仮に原告主張の(A)(B)(C)(D)(E)の五事項が本件発明の要件であるとすれば、この事は原告が抗告審判に於て提出した本件発明の訂正明細書記載の本件発明の要旨と内容に於て相違し本件発明が方法の発明であるとする原告の主張と矛盾する。何となれば原告主張の(C)(D)(E)の三事項は単に本件発明による攪拌器を使用した際に発生する現象に過ぎず、卵白を水液化する旨の方法上の一過程とすることができない。従つてこの場合に本件発明の要旨は原告主張の(A)(B)の二要件のみに存することとなるが之等は攪拌器自体の説明にすぎないから結局本件発明は物の発明に外ならないこととなるからである。従つてこの点の原告の主張も失当である。
同じく理由の(五)について、原告の主張は畢竟「本件発明と昭和二十三年実用新案出願公告第一三五七号公報記載の調理器との間には構造上著しい差異があり、その差異が目的達成上重大な差異を生ずるものである。即ち本件発明は器体の伸縮すること、捲線が押圧されて扁平となつた時互に密着することによつて目的を達成するものであつて、両者は思想を根本的に異にしているに拘らず、その構造上の差異のみを認めて目的達成上の差異あることを審理することとなくして本件出願を拒絶したことは審理不尽である」と言うにある。而して右にいわゆる目的達成上の差異とは効果の差異を指称するものと解すべきところ、発明の新規性の有無を審理するに当りその基準として不可分的因果関係にある構造、作用及び効果の何れの一をも軽視すべきではないけれども、構造上の差異によつて効果に差異が生じたが故に直ちに別異の発明であると断ずることはできない。即ち構造上の差異に基ずく効果の差異あるが故に別異の発明であるとする為には構造の差異に基ずいて別異の作用を生ずる場合でなければならないのであつて、もし作用上何等の差異がなければ構造上の差異は単なる設計的差異に帰着し効果の差異は程度の差異は程度の差異に過ぎないこととなるのである。審決は本件発明と前記引用例たる実用新案との構造上の差異を認め而も右差異は単なる設計的差異に過ぎないものであつて之に伴つて別異の作用を生ずるものとは認めなかつたのであり、原告主張のように構造上の差異及び之に基ずく効果の差異を無視し以て審理を尽さなかつたものではない。
同じく理由の(六)につき、審決は単に参考の為に昭和九年実用新案出願公告第一一一三二号を引用したものであつて右引用が本件出願の許否に何等の関係もないこと前記の通りであるから本件発明と右実用新案とがその構造を異にしていることを理由として審決が失当であるとする原告の主張もその理由がない。
然らば原告が審決が違法であることの理由として主張するところはすべて理由がなく、本訴請求は失当であると述べ、
甲第一乃至第十一号証の成立を認める、検甲第一号証が本件発明に基ずき原告の作成した攪拌器であることは認める、検甲第二号証が昭和二十三年実用新案出願公告第一三五七号公報の図面にある攪拌器と似ていることは認めるけれども、右公報に記載された考案通りのものであることは否認すると述べた。
三、理 由
原告がその「梯形状捲回線器体による卵白を水液状とする方法」なる発明につき昭和二十三年十月十日特許庁に対し特許の出願(特許庁昭和二十三年特許願第八九一三号事件)をしたところ、昭和二十五年八月十一日拒絶査定を受け同年九月二十五日特許庁に抗告審判の請求をし、同事件が特許庁昭和二十五年抗告審判第四九七号事件として審理せられ、昭和二十七年五月二十九日右抗告審判請求が成り立たない旨の審決がなされ、同年六月七日右審決書謄本が原告に送達されたことは当事者間に争のないところである。
而して成立に争のない甲第四号証によれば右発明の要旨が「弾性力強き線条を渦巻状に捲回し、之を常態円錐形状(右甲第四号証本件特許出願につき原告が特許庁に提出した訂正明細書には梯形状としてあるけれども訂正明細書の記載内容全般に徴すれば梯形状は誤りであつて円錐形状とするのが正当である)器体に形成し、該円錐形状器体の最上端に柄を附設し最下端遊離部に小球を附したものを結合力強き卵白を容入した容器内に差入れ、前記柄を握り容器内に於て右器体の円錐形状捲回線条に之の張力に抗して押圧力を加え、最下端の最大径の捲回線条と之より径の小なる其の上方の捲回線条との間隙より卵白を逸出し、他の一部は上方の捲回線条に衝き当つて更に破壊され、之を段階的に時を異にし且変位して逐次繰り返し、最後に器体を扁平状に圧迫して卵白内に没入し終つたとき押圧を止め器体を円錐形状に復帰させ、その復帰に際し卵白は円錐形状器体の表面に層をなして該器体を被包し、器体と容器との間に空室を形成する、この空室に大気が進入することは破壊された卵白の滴下と相俟つて卵白層中に気泡を形成して卵白の凝固を妨げる一方次の破壊を容易ならしめる、この操作を繰返して卵白の結合を破壊すると共に小気泡を此の間に密に形成して卵白を泡立てることを特徴とする円錐形状捲回線条器体による卵白を泡立てる方法」であることが認められる。
よつて右発明が新規性を有するか否かにつき審案するに、成立に争のない甲第二号証(前記審決に引用された昭和二十三年実用新案出願公告第一三五七号公報)によれば右実用新案による調理具は適当の太さの弾力性ある金属線を間隙を存せしめて渦巻状に捲回しその外側の端は適当に屈曲させて直ぐ内側の捲回部に熔着させその中心部捲端を上方に延して脚とし、之に柄を連設し、且捲回部は皿を伏せたように適度に彎曲させた構造のものであつて、之を使用するには右の柄を持ち容器内の資料(例えば芋類、卵、饂飩粉等)を器底に向つて押圧する、然る時は資料は捲線の間隙から外側え濾出する、このような操作を繰返して芋類の押潰、饂飩粉の混練又は卵白の攪拌をするものであることを認めることができ、この認定を覆えすに足る資料は存しない。
そこで本件発明による攪拌器と右実用新案によるそれとを比較するに、両者は共に弾力性ある金属線条を渦巻状に捲回し全体の形状を外端から中央に向つて漸次高くした円錐状とし、中心に把柄を付したものと言うべく、又その使用による卵白泡立方法としては何れも右各攪拌器の把柄を持つて之を卵白を入れた器の底面に向つて押下げ捲回線条の弾力性に抗して全体が卵白内に没入し器底面に接する迄線条を順次底面に圧接させた後その弾力性及び把柄の引上げにより攪拌器を原形に復させこの操作を繰返して卵白を攪拌して之を泡立たせるものであると言うことに於て全く同一であると言わなければならない。尤も(一)本件発明に於ては捲回線条の太さにつき何等の説明がないのに対し実用新案では相当の太さを有すべきものとしてあり、(二)本件発明に於ては捲回線条を常態円錐形状器体に形成すべきものとしているに対し、実用新案では之を皿状としており、(三)本件発明では捲回線条の最下端の遊離部に小球を付しているに対し、実用新案では前記の通り捲回線条の端を屈曲熔着させており、(四)本件発明に於ては捲回線条を容器の底部迄押圧し尽した場合に捲回線条間に間隙を存せしめないようにしてあるに対し実用新案では捲回線条間に間隙を存せしめないように要求していない等の差異はあるけれども、右(一)及び(二)の差異あるが為に各攪拌器の捲回線条の太さ又は器体の高さに差異を生ずべきものとしてもこの差異によつては捲回線条の弾力性による上下運動の程度範囲に差異を来し得るに止まり、各攪拌器の使用による効果の上に本質的の差異を来すものとは到底認め難く、次に前記(三)の差異は単に形態上の微差に過ぎずして攪拌器の使用による効果の上には全然影響がないものと認むべきであり、又(四)の差異につき本件発明に於ては攪拌器の使用に当り捲回線条の完了の時に初めて線条間の間隙が消滅するに過ぎず、押圧の完了に至る迄の過程即ち操作の大部分の間に於ては右間隙は程度に変化はあるとしても存するのであつて、作用上実用新案との間に格別の差異あるものと認め難く、従つて右押圧完了時に右間隙を存せしめないことにより原告主張のような格別の効果あることは認め難く、又右認定の本件発明及び実用新案の要旨に照らすときは必要に応じて実用新案による攪拌器の設計を変更して本件発明の実施型のものに改めるには格別発明力を要しないものと解するのを相当とする。然らば本件発明と前記実用新案とはその方法を同じくするものと言うべく、而して前記甲第二号証よれば右実用新案を記載した公報発行の日が昭和二十三年七月九日であつたことを認め得るから本件特許出願の日たる昭和二十三年十月十日当時に於ては右発明の方法は既に右公報に記載されてあつた結果本件発明の方法はもはや公知のものであつて新規のものではなかつたものと言うべきである。
尚原告は審決が昭和九年実用新案出願公告第一一一三二号を引用して本件出願を拒絶するにつき出願人に意見書提出の機会を与える手続を経なかつたが故に審決は失当である旨主張するけれども、成立に争のない甲第十一号証(右審決書)によれば審決はその理由に於て本件発明が前記昭和二十三年実用新案出願公告第一三五七号による方法と同一であるが故に新規性がないものとし単に卵白泡立器に於て容器の底部に空気を供給することが極めて普通であることの別例として参考迄に前記昭和九年実用新案出願公告第一一一三二号に言及したに過ぎないことを窮知するに難くないから、右審決の説明を以て特許法第百十三条第一項にいわゆる拒絶査定に対する抗告審判に於てその査定の理由と異る拒絶の理由を発見した場合に該当するものと解することはできず、従つて右の場合に特許法第七十二条による意見書提出の機会を与える必要はないものと解すべきであるから、右原告の主張も之を採用することができない。
然らば本件特許出願を許すべからざるものとして之を排斥した前記審決は相当であつてその取消を求める本訴請求は之を認容すべからざるものであり、原告は以上当裁判所の判断した点以外に於て終始右審決の説く所を非難攻撃し、被告も又一々之等原告の主張に対し反駁をしているけれども、既に上述したところにより本訴請求を失当とする以上之等の主張に対する判断はすべて不必要であるから之を省略し、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)